腸管出血性大腸菌

 大腸菌は健康なヒトの腸管に存在し、ほとんど無害ですが、特定の大腸菌がヒトに下痢を起こす性質を持っており、下痢原性大腸菌と呼ばれています。その中でも最も恐ろしいのはO157で代表されるベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌です。この菌が産生するベロ毒素は溶血性尿毒素症症候群の発症に深い関係があると言われています。ベロ毒素を作り出す大腸菌はO157の他にはO111とO26がよく知られています。
 毒素産生性の腸管出血性大腸菌で汚染された食物を摂取することによりおこる腸管感染が主なもので、無症状や軽度の下痢から激しい腹痛、血便を伴う頻回の下痢、さらには重篤な合併症を起こし死に至るものまで症状は様々です。多くの場合、3−5日の潜伏期の後、比較的軽い発熱、激しい腹痛を伴う頻回の水様下痢、次いで血便となります。血便は初期には少量の血液を混入する程度ですが、次第に増加し、典型例では便成分の少ない血液そのものの状態になります。赤痢の様に他の細菌性腸炎に比べ、腹痛および血便が激しいのが特徴です。6−7%に溶血性尿毒素症症候群が合併すると言われています。
 溶血性尿毒素症症候群溶血性貧血(血管の中で血球が壊れ貧血になる)、血小板減少(血が止まりにくくなる)、急性腎不全(尿が出なくなる)の3つが主な症状です。下痢の発症から数日から2週間以内に突然顔色が悪くなり、尿が出難くなって発症します。
 腸管出血性大腸菌の診断は便の検査で菌がいる事を調べ、ベロ毒素が作られていることを確認する必要があります。
 治療は脱水を改善したり、腸を休めるために輸液(点滴)を行います。菌を死滅させるためには抗菌剤を使いますが、これについては賛否両論あります。
下痢止めは使いません。
 腸管出血性大腸菌O157は75℃以上、1分以上の加熱で死滅します。
 家族に患者が発生した場合は、患児のおむつや便を処理するときにはゴム手袋を着用しましょう。ゴム手袋がない場合は、流水中で十分洗うか、逆性石けんや消毒用アルコールで消毒しましょう。患児の便が付いた衣服は煮沸するか、薬剤で消毒した上で、家族の衣類とは別に洗濯しましょう。
 料理する時は生野菜など生で食べるものを先に調理しましょう。生肉、特に鶏肉を調理した包丁やまな板は熱湯をかけ洗剤で洗ってください。